来 歴

満身創痍

眼球はどぶの中に捨てた
眼鏡の奥のくぼみには光も射さない
ほかに方法もなくただ歩いて行く

地球は苔のごとき隠花植物に掩われ
ひとつかみの安住の地を見つけるには
ありあわせの人生の
大半を投げ出してもまだ足りないのだ
花のような若さはとうに使いはたし
油つこい悲哀が
僅かに気管の底にひつかかつているきりだ
空は空にあり
草には草の生える場所があると聞くが
彼を指名する安住の地などは
最初からありようもなかつたのだ
おそらく彼の臓腑の内部には
はかりきれない苦汁がたまつてしまつたのだろう

魂はどこへ置いて来たのだ
彼の顔をして身体だけが先を行く
いつからあの厖大な天体の運行を真似ているのか
満身創痍の彼が
蹌踉と地球の崖つぷちを前へと歩いて行く

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